2012年7月31日火曜日

7月分活動報告

 「憑かれている」とまで言われるほど、田んぼに入り浸りだった私ですが、ついに今月半ば、草取り作業を完遂することができました!水の管理などはこれからも継続しますが、大きい作業としては後は(多分)収穫を残すのみ。稲が育つのは本当にあっという間です。


  田んぼの行程に目処がついて、ちょっと集中力が切れたせいもあるでしょうか。和歌山の夏には今ちょっとまいっています。暑さもさることながら、東京より一段と強い湿度。ダルさが来たら自販機で炭酸を買う、あるいは冷房がガンガンに効いたコンビニに逃げ込むという都会生活に慣れきった私に、この気候はちょっとした試練です。ただ、こちらに来てから入手した皆地笠と周辺に川がある環境には非常に助けられています。


  皆地笠は別名貴賤笠(皆地はお隣本宮町にある集落名です)と呼ばれ、古くから熊野の参詣客や地元農民、釣り人達に愛用されてきた伝統工芸品です。今は芝安男さんというおじいちゃんただ1人がこの技術を伝えています。私が初めてこの皆地笠に出会ったのは、お隣の集落笹尾の芝刈り手伝いに行ったときのことでした。その日、早朝急いで出発したためにかぶり物を忘れた私は地元のおばあちゃんにこの皆地笠を貸していただいたのですが、その時の笠の匂いの芳しさ、装着時の軽さ、涼しさにほとほと感嘆してしまったのです。今では、畑仕事、田んぼ仕事には欠かさず使用しています。安っぽい服装と休学当初とはすっかり変わってしまった色黒肌とを併せて、笠装着時の姿を「ベトナム人」と揶揄(?)されたことがあったのですが、…なるほど、田んぼの中で腰を屈めて笠をかぶる姿は自分で見ても、一瞬ここは東南アジアかと錯覚させるものがあります(笑)。

  ところで、この笠、油が塗りこまれていて雨天にも使えるのですが(これがなくては田の草取りを穂が出る前に終わらせることはできなかったと思います)、さすがに背中全域まではカバーしきれません。だから、どうしても蓑が欲しくなる(笑)ただ、あながち、これは冗談ではなく「完全に防水したい」とかいう訳でなければ、レインコートよりも蓑の方が手軽で涼しく便利な気がします。見た目が現代流でないだけで、あるいは固定観念で使い古された技術だと思いこまれて、お蔵入りしている古くから伝わる技術って意外と多くあると思うのですが、コレ如何に。


  皆地笠についての話がだいぶ広がってしまいましたが、川についても二言三言。

  生活に川があるって素敵なことだな、と思います。日中炎天下の畑作業の後に川に身を任せてだだべるのは言葉では言い表せない最高の快楽です。クーラー、扇風機がなくてもなんだかんだで健康でやれているのは間違いなくこの恩恵があってのこと。また、作業後だけでなく、暑さで集中力が続かない日は昼過ぎの休憩時間に海パンに着替えて泳ぎに行きもしますし、川湯に入浴する際は脇で流れている川を水風呂変わりに使ったりしています。更に、私はまだよく要領が分かりませんが、地元の方は、鰻や川エビを良くとって遊んだものだという(鰻に関しては今も皆さん早朝元気に取りに行かれます)。去年のような恐ろしい水害が何十年に一度は襲うとはいえ、川はいつもはこれほどまでの恵みを授けてくれる。要は個々人の気持ちの持ちようなのでしょう。


  今月からパン作りの手伝いをさせていただけることになりました。何で一番不器用で使い勝手の悪い私にお声がかかったのかな?と最初は思いましたが、どうやら1年確実に滞在してかつ伸び代がある(?)僕を戦力になるまで育ててくれようとしてのことらしい。前々からパン作りには密かに関心があったのですが、学校で行うパン作りは業務用に直結しているので不器用な私としてはどうしても尻込みしてしまっていました。それがお願いするまでもなく今回声をかけてくださったのは非常にありがたいことです。


   こう言うと何だか矛盾するようですが(ありがたいし、事実毎回かなり楽しみにしてもいるんですが)、実際の作業中はだいぶやきもきしています。手伝いとしてこの場に来ているのに役に立てない、そしてなかなか上達しない…。自分の不器用さにやきもきすることは滞在期間中幾度となくあるのですが、パン作りで貢献できていないことを実感する時ほどそれが募る瞬間はありません。また、先に述べたとおり業務用のパン作りで時間的にも余裕がないため、簡単な説明を受けたあとはどうしても見ながら覚える部分が多くならざるをえません。今までは、出来ないからには一から手取り足取り教わって当然だ、と居直っている思いあがった自分がいたように思います。そんな自分に作業中気付くと余計むしゃくしゃする。教えてもらわにゃ何も出来ない受身の人間からは一刻も卒業しなくてはなりません。


  ややネガティブなことを書き連ねました。とはいえ、学びの場がこうして豊富にある環境は本当にありがたいと感じています。パン作りのような時間的に切迫した作業は例外的で、いつもはかなり丁寧に皆さん教えてくださってます。滞在して間もないころは、その中心は三枝さんでしたが、今では決して彼だけではなく(もちろんその比重は大きいのですが)、学校に滞在している1人1人が先生をしてくれる。各野菜の調理の仕方や料理の段取りだったり、番線のねじり方やロープの使い方だったり、はたまた英会話だったり、本当に色々です。三枝さんのところの3歳児と一緒にいても(満更でもなく)得るところがある。学校に同居している方々を中心にして地域の人々・自然、来訪者と同心円状に学びの場が広がっている。いい環境にいるなとつくづく思います。


  こうして色々教わっていると、もらいっぱなしで他人に何も教えられることのない自分が少々虚しく感じます。たかがハタチの小僧だからしょうがない、と自分に言い聞かせようとしても、どうにも割り切れない部分がある。ただ、どうしようもないことはどうしようもない。せめて教えてもらっている分を出来るだけ全て吸収できるよう努めるのが最低限の報いなんだろうなと思っています(これも「言うは易し行うは難し」なことですけどね)  冒頭で、田んぼが一段落した、と述べましたが、裏を返せばそれはThink Shinguの研究員としての実践・研究業務を怠る言い訳(?)がなくなった、ということでもあります。今まで全く何も考えてこなかったという訳ではもちろんないのですが、残りの滞在期間も鑑みてそろそろ研究員として行動せねばならない時期に差し迫っていることは事実でしょう。  その一環として、今は高校生向けの「奨学米」企画というものを考えています。


  そもそものキッカケは、柴田さんに「せっかくそんなによく手入れした米なんだから、何かに使ったら?」とご助言いただいたことです。僕は今、1段4畝ほどの田んぼを育てているのですが、それまで私は米の用途を考えたことがありませんでした。言われてみれば、これだけの田んぼから取れるお米を自分の身の回りだけで消費できるはずもない。そこで今、既存の「奨学米」という制度に着想を得つつ、新宮のために何が出来るかを考えているという訳です。 その中でも中核になりそうなのが高校生向けの事業です。企画内容としては、現段階では、200kg~300kgほどのお米を販売用に供出して、そこから得られた利益を学生に還元・給付するという形が現段階では念頭にあります。何のための給付かというと、海外渡航の後押しのためにです。 7月まで学校に滞在していて、今は新宮の方で独自に塾を開業しようとしている方がいます。その方は、現在、カリフォルニア州のサンタクルーズという市と新宮市との若者交流のインストラクターを担っています。  この交流事業、話を聞いてると、どうもギチギチで自由度が低いスケジュールらしいのです(しかも費用もそれなりに高つく…)。初めての海外渡航がそのように管理された、おじさんおばさんのツアー旅行みたいな内容になってしまってはもったいない。もっと別の選択肢を示してあげられないだろうかという話を皆でしたことが今回の企画の前提としてあります。


  大学生になってから、海外を旅する人はザラにいます。しかし、私としては、今の中高生にはなるべく早い段階でたくさんの実体験を積んでほしい。そして、視野を広げた上で、より多くの選択肢が見える状況になった上で、岐路に立ってほしいと願っています。その経験は何も海外渡航に限らずともいいのですが、起業であったり、ギャップイヤーを利用してのインターンであったりは少しハードルが高いと思う。その点、ちょっとした後押しがあれば、一歩を踏み出してくれるかな、という期待がもてるという意味でも海外渡航という設定は活きるのではないかと思っています。


  ただ、今のところの判断材料は交流事業に参加している高校生(についての又聞き)だけですから、独りよがりな認識になっている恐れがある。ですから、今後は新宮市内の高校生と直に対話をする場を増やして、より現実に沿った企画に修正していければなと思います。


  また、まだしっかりとした形にはなっていませんが、海外留学生向け奨学米や、サンタクルーズとの交流事業のためにお米を使うことも検討中です。収穫が済んだわけではなく、正に「捕らぬ狸の皮算用」ですが、構想は膨らむばかりで今から楽しみな限りです。


  …今月はこんなところでしょうか。それではまた来月末にお会いしましょう。

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